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ビジネス

窃盗犯の弁護士からの示談の申入について

 

経営している店舗や事務所に入った窃盗犯が捕まった場合犯人側の弁護士から被害弁償の申し出が来ることがあります。

この場合、店側(被害者側)としてはどのように対応したら良いのでしょうか?

 

弁護士の提示額は妥当かどうか

お金を受け取った場合犯人の処遇はどうなるのか

など不明な点が多いですよね。

 

今回は、実務経験10年以上の現役弁護士が、この問題について解説したいと思います。

 

事例

 

先日、私が経営する店舗に窃盗が入りました。

従業員への給与として準備していた現金50万円が盗まれました。

数日後に無事犯人が逮捕されたところ、

犯人の弁護士から示談金50万円の受け取りの提示がありました。

 

店側(被害者側)のとりうる態度(被疑者段階)

 

被疑者段階とは

 

検察官が犯人を起訴していない段階

です。

逮捕、勾留中であることが多いです。

 

この段階で店がとる態度と、犯人の有利事情となる度合いについては以下の通りです

 

被害者の取りうる態度 犯人への有利な事情となる度合い
示談+被害届・告訴の取り下げ         高い
示談+宥恕(ゆうじょ)文言を入れる          ↕︎
示談のみ
損害賠償金を受け取る
損害賠償金を受け取らない         低い

 

示談とは

 

「店と犯人との間で締結される和解契約」

です。

被害店は犯人に対して、民法709条(窃盗という不法行為)による損害賠償請求権を持っています。

この損害賠償請求権の確認や、その金額、支払い方法等について両者で合意したことを示すものです。

 

金額の相当性ついて

 

損害賠償の金額については、

直接持ち去られた現金額や、

店舗を休業させた場合は休業損害額、

鍵や設備の破壊があった場合はその修理代金額

などの合計です。

 

これらの金額はケースバイケースです。

加えて、犯人側の資力状況によって、実際に受け取ることができる損害賠償額等が変わってきます。

よって、いくら受け取るかについては弁護士に相談されることをお勧めします。

 

被害届、告訴の取り下げ

 

被害届は、

被害者が被害が生じたことを警察に通報すること

です。

 

警察の捜査の端緒となります。

 

被害届の取り下げは、検察官が「起訴をしない」という判断を行う方向の材料となります

 

 

告訴とは、

被害者が捜査機関に対し犯罪事実を申告し犯人の処罰を求める意思表示

です(刑事訴訟法230条)。

 

告訴取り下げは、起訴に告訴を必要とする「親告罪」においては不起訴の理由となります。

また親告罪でない場合についても、不起訴の有力な要因となりえます。

 

宥恕(ゆうじょ)文言

 

被害者が犯人を許す

と言う文言です。

 

この文言が示談書に入ることによって、 検察官は、不起訴を含め犯人側に有利な判断をしやすくなります。

 

被害者のその他の態度

 

被害者が、処罰感情をとても強く持っており、犯人に厳罰を望む場合は、

示談をしない選択や、

損害賠償金のみ受け取る、

損害賠償金すらも受け取らない

という選択も可能です。

 

被害者の態度に応じた犯人の処遇

 

刑事手続は、公共的な手続きでもありますので、被害者の意向のみで犯人の処遇が決まるわけではありません。

よって、 被害者の態度によって確実にこうなると言うことではありませんが、傾向や目安を以下の表にまとめました。

 

処分 内容 犯人における有利の度合い
不起訴処分 起訴猶予等で裁判をしない      高い
略式命令(罰金の支払) 正式裁判をしない ↕︎
公判請求 正式裁判を行う      低い

 

店側(被害者側)のとりうる態度(被告人段階)

 

被告人段階とは

 

検察官が犯人を起訴した段階です。

 

犯人の有利事情となる度合い

 

基本的には被疑者段階に示した表と同じです。

 

ただし、検察官により刑事裁判が請求されている被告人段階では、被害届の取り下げや、告訴の取り下げは実務上ほとんど見られません。

再掲

被害者の取りうる態度 犯人への有利な事情となる度合い
示談+被害届・告訴の取り下げ         高い
示談+宥恕(ゆうじょ)文言を入れる          ↕︎
示談のみ
損害賠償金を受け取る
損害賠償金を受け取らない         低い

 

よって、犯人に有利な事情となる度合いが最も高いのは

「示談+宥恕あり」

のパターンとなります。

 

被害者の態度による被告人の処遇

 

裁判所は、示談の有無や被害者の意向等を加味し

以下のパターンの判決をすることが考えれます。

 

判決 内容 軽の重さ(法的)
罰金 罰金の支払が命じられる 軽い
執行猶予付き 刑の執行を一定期間猶予する ↕︎
実刑 刑務所で懲役等を行う 重い