職場でのパワハラで「持病のうつ病」が悪化して休業せざるを得なくなった場合、
パワハラの相手や会社に対してどのような請求をすることができるでしょうか?
もともとうつ病を抱えていたことが法律上不利に取り扱われるのでしょうか?
今回はこの問題について実務経験を10年以上有する現役弁護士が解説したいと思います。
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相談例
私Aは、職場の上司Jから人格攻撃的発言を度々受けています。
このことによって、持病のうつ病が悪化し、休職するに至っています。
私Aは自分にうつ病の持病があることを、直属の部長と社長だけに元々伝えていました。
Jや会社に対する損害賠償の請求ができるでしょうか?
解説
J個人に対する請求
AがJに対して請求する根拠は不法行為による損害賠償請求です。
AとJとの間に直接的な契約関係がないからです。
損害賠償請求の内容は、
- 治療費
- 休業損害(会社から補償が出ている場合はその差額分のみ)
- 慰謝料
等です。
では、
もともとAが有していたうつ病という持病が、今回の治療期間の増加や、休業期間の増加に寄与している場合、
この全期間の治療費や、休業損害を請求することができるのでしょうか?
判例は、
被害者側の持病のため損害が発生し又は拡大した場合、 加害者がその全部を賠償するとすることは「損害の公平な分担」という不法行為の目的に反する面があるとして、民法722条2項類推適用して、損害賠償額の限定をします。
具体的にどの程度限定されるのかについては個々の事案に応じて違ってくるので何とも申し上げようがありません。
今回もJに対する不法行為の請求の場面では、その損害賠償請求額の一部が限定される可能性があります。
会社に対する請求
J個人に損害賠償の請求をしても、Jの資力が乏しい場合、損害賠償請求権の回収が十分にできない場合があります。
したがって、会社に対して、
労働職場環境においてこのようなパワハラが発生することを防止、予防する措置を講じる義務を履行していない
と構成し、
労働契約上の職場環境配慮義務違反
を理由とする、
債務不履行に基づく損害賠償請求
をしていくことが考えられます。
では、前述したように、もともとの相談者にうつ病の持病があった場合、 会社に対する損害賠償請求額の範囲はどうなるのでしょうか?
民法416条2項によれば
特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者はその賠償を請求することができる
となっています。
よって、
Aがあらかじめ会社の社長と直属の部長に自分の持病を伝えていた本件においては、
会社として、このような損害を予見できたといえるので、
治療に費やした全期間分の治療費や、休業せざるを得なかった全期間についての休業損害の請求をすることができると考えます。
ただし 債務不履行責任における慰謝料については、 民法上規定がなく、 不法行為とは異なって、基本的には認められにくいと考えてください。
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