- 身寄りのない高齢者を看取った介護施設がどのようにして未払いの入居費用を回収するか?
- 残された荷物は誰が処分するのか?
- 病院への支払いや葬儀代は誰が負担するのか?
などについてお悩みの介護事業者様もいらっしゃると思います。
また、
突然、親交のなかった兄弟が死亡したとして、
病院や介護施設から遺産の引き継ぎの請求や
医療費や介護施設代の請求が来た
などで戸惑っておられる方もいらっしゃると思います。
今回は実務経験を10年以上有する現役弁護士がこの問題について考えてみたいと思います。
弁護士中村亮佑へのお問い合わせはこちらのHPから!
相談例
ケアマンション(※)Cに居住する身寄りのない高齢者Kさんは、
ある日、持病の急変により入院し、1ヶ月ほどしてお亡くなりになりました。
※ ケアマンション
バリアフリー化された施設であって、各種の生活相談、食事提供、入浴準備、緊急時対応等を行う賃貸住宅のことを本稿では指します。
Cは善意で葬儀や火葬の手配も行いました。
Cは
未払いの入居料の支払いを受けることや、
部屋に残されたKの荷物の処分を行い、次なる希望者に部屋を貸したい
と考えています。
どのように手続きを進めたらいいのでしょうか?
病院からの医療費の請求や、葬儀会社からの請求もCに対してきています。
解説
プラスの遺産について
高齢者Kさんが死亡した時点で、Kの持っていたプラスの財産は、すべて相続人のものとなります。
したがって、Kさんの部屋に残された預金通帳や、現金、家具、日用品などの動産処分権限は相続人へ移ります。
負債について
反対にKさんが死亡した時点で有していたマイナスの財産(負債)、
例えば病院への医療費支払い債務や、
Cに対する賃料支払債務等
も全て相続人が相続します。
これらの金銭的な支払債務は、
Kの死亡時にその法定相続分に応じて当然に分割された上で、
各相続人に帰属します。
よって、
Cや病院はまずKの相続人を調べて、
相続人が複数人いる場合は
それら全部の相続人に対して、法定相続分に応じて、売掛金回収をしていくことになります。
葬儀代金
葬儀代金については、Kの死亡後に発生した債務です。
したがって厳密に言うと相続債務には当たらないように思います。
身寄りのないKの死後、Cが当事者として葬儀会社と葬儀契約をしていることと思います。
よって、
この契約により葬儀費用の支払い義務は介護施設Cにある
と考えられます。
したがって純粋に法律的に考えれば、
Cが葬儀費用を葬儀会社に支払って、
その後、
その支払った分を民法692条、702条が定める「事務管理」として、
その費用の償還請求を各相続人に対して分割して行っていく
ことになると思います。
いずれにせよ相続人の調査確定が必要となってくるわけです。
この調査は法律専門家である弁護士や、司法書士が取り扱う業務となってきます。
Cは、相続人が 1人でも発見できたら、その1人に対して、
- 全相続人の意見を取りまとめて、早急にKが使っていた部屋の荷物の処理、明け渡しをするように求め、
- Cがまだ支払いを受けていない入居費用、病院への医療費の支払いなどを行ってもらうようにお願いする
ということになると思います。
相続人側の対応
逆に、介護施設Cから突如このようなお願いを受けた相続人の1人「Sさん」はどのように対応したら良いのでしょうか?
おそらくこのようなケースは、
Kに子供もおらず、Kの両親も死亡していることが多いことからして、
兄弟が相続人となると思われます。
ですので、
これまで行き来のなかった遠方にいる兄弟が
突如、相続財産の引き継ぎ等を申し入れられると驚いてしまう
と思います。
ましてCの顧問弁護士から手紙が来た場合などはなおさらです。
Sとしては
早急に相続人全員を確定して、
全相続人の意向を取りまとめてマイナスの遺産の部分、
つまり医療費や介護施設入居費、葬儀費用等を支払うべきでしょう。
同時に、Kが遺したプラスの遺産についても「どのように分割するか」
と言うことを全相続人間で話し合って、遺産分割協議書と言う形にまとめる必要があります。
この遺産分割協議書が有効に取りまとめられた後に初めて、
金融機関にKの通帳を持っていって解約して
遺産分割協議書どおりの分配をする
と言うことになります。
この辺の手続きは
専門的かつ面倒な事務作業がかなり予想されます
よって、最初から弁護士に依頼しておくと言うことをおすすめします。
仮に、マイナスの遺産である負債についての支払いや、プラスの財産の分割方法について
各相続人間で意見がまとまらなかった場合は、
家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行うことになるでしょう。
しかし、その調停で話し合いの対象となるのは 基本的にプラスの財産のみです。
よって、マイナスの負債 については原則通り相続債権者であるCや病院が各相続人全員に分割して請求していく必要があります。
例えば
100,000円の請求権がCにある場合、
相続人が5人いる場合は、100,000円÷ 5 = 2万円ずつ各相続人に請求していく
と言う作業が必要になってきます。
ですので、各相続人において、できるだけ円満に遺産分割協議が進むことが望まれます。
弁護士中村亮佑へのお問い合わせはこちらのHPから!