弁護士中村亮佑のブログへようこそ
ビジネス

未払い賃料の回収と明渡実現の方法 その1

 

コロナ禍で、賃貸している物件の賃料滞納額が多額になってしまって、困っておられる大家さんも多いのではないでしょうか?

また、そのような依頼を受けた先生方も多いのではないでしょうか?

 

今回は、

滞納賃料の回収をいかに行うか、

滞納賃料の回収はどの程度可能かについて、

どのようにして建物の明渡を実現したか

三回にわたって、実務経験10年以上の現役弁護士が、事例をもとに解説したいと思います。

弁護士中村亮佑へのお問い合わせはこちらのHPから!

事例

AはBに対して、駅前の幹線道路に面した建物を、店舗用として賃貸した。

しかし、Bは賃料の支払いを怠るようになった。

Aは、Bの懇願及びコロナ禍という状況を考慮して、辛抱強く待っていたものの、その滞納賃料の合計がついに20ヶ月分を超えてしまった。

敷金は賃料の6ヶ月分である。

Aは弁護士Lに対し、本件建物の明け渡しと未払い賃料の回収を依頼した。

 

考えられる道筋

 

1 民事保全をし、賃借人Bの資産を差し押さえておく。

  その後、交渉、訴訟などで回収する。

2 一括返済又は分割弁済、及び、店舗の明渡を求める。

  交渉決裂の場合、民事訴訟を提起する。

3 B、保証人の資力が乏しく、敷金相殺後、残りの賃料回収を諦める。

 

道筋1について

 

これを実行するメリットは、 上記2で勝訴判決を得た場合などに、その判決をもとに実際に未払い賃料の回収が容易にできる点です。

 

なぜなら、民事保全をしておかないと、勝訴判決を得た場合であっても、

そもそもBにおいて強制執行すべき財産が存在しなかった

場合や、

受任通知後や民事訴訟継続中に、 Bがその財産を隠匿したため、 強制執行が空振りに終わった

場合のように

その勝訴判決が実際上の意味を持たない

ものになってしまう可能性があるからです。(このような場合、詐害行為取消権などありますが、しないに越したことはありません。)

 

 

しかし、民事保全については「保全すべきBの財産を特定する」というハードルが存在します。

 

本件では

Bが所有する不動産は無く、

Bは本件店舗を用いて個人事業主をしているのみだったので、どこかに勤めている給料債権を仮に差し押さえると言うことも困難です。

 

そうすると残りは、Bの預金債権を仮に差し押さえておくことを考えます。

 

そこで、Lは「弁護士会照会」を使って、

Bの預金債権の情報、

具体的には、

銀行・支店名、残高等の情報を

取得するよう試(こころ)みました。

 

弁護士個人では、Bの預貯金に関する上記情報を取得する手段はありません。

 

よって、Lは

「弁護士会照会」=弁護士会を通じてその情報を取得する手段

選択しました。

 

 

弁護士会照会について

 

「弁護士会照会」の審査は、

  • その照会をすることによって得られる請求者の利益、正当性、必要性と、
  • 照会によって失われる利益、本件で言えば賃借人のプライバシー権や本件照会によるBの営業上の信用毀損の可能性

を比較考慮することにより、 ケースバイケースで判断されます。

 

 

したがって、弁護士会照会を本件で行っても、その申し立てが弁護士会により却下される場合があります。

 

 

賃借人を保護しすぎでは?

と言う批判もあり得るでしょう。

 

しかし、弁護士会においては

判決を得た後強制執行の準備として行う照会であれば、比較的審査が通りやすいのだが、

まだ訴訟を提起してない民事保全の段階であれば

必ずしも審査を通過するとは限りません

 

本件の弁護士会照会では、大家側の必要性・正当性を説得的に訴えたところ、弁護士会照会が認められました。

 

次回は、弁護士会照会の結果の内容など「続き」をご報告したいと思います。

弁護士中村亮佑へのお問い合わせはこちらのHPから!