皆様は
「遺言」と「遺贈」の違い、「遺贈」と「相続させる遺言」との違い
について十分に理解できていますでしょうか?
依頼者などにわかりやすく説明することができますか?
この点について、実務経験10年以上の現役弁護士が掘り下げてみたいと思います。
定義の確認
まずは教科書で定義を確認してみましょう。
遺言とは,死後の法律関係を定める遺言者の最終意思の表示である。
潮見佳男. 民法(全)(第2版) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.12304-12305). Kindle 版.
遺贈とは,被相続人が遺言によって他人(受遺者)に自己の財産を与える処分行為である(964条)。
潮見佳男. 民法(全)(第2版) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.12632-12633). Kindle 版.
遺贈の相手方は,第三者であることもあれば,相続人であることもある。もっとも,「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言や,「すべての遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言は,遺言者の別段の意思表示がなければ,遺贈ではなく,遺産分割方法の指定として扱われる。
潮見佳男. 民法(全)(第2版) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.12636-12639). Kindle 版.
このように、
相続させる遺言は遺産分割方法の指定(民法908条)
とされています。つまり、遺贈ではないのです。
「遺贈」と「相続させる遺言」を分ける意味
「相続させる遺言」をした場合、遺贈ではないので、登録免許税に違いが生じます。
つまり、従前は、登録免許税は
登記原因が相続の場合、固定資産税評価額× 6%、
登記原因が遺贈の場合、固定資産税評価額× 25% でした。
これが「相続させる遺言」が浸透してきた主たる原因のようです。
遺産分割協議が終わるまで待たないといけないのか?
「相続させる遺言」を遺産分割方法の指定と解した場合、遺言の相手方は、
遺産分割協議が終わるまでその不動産の登記を取得したり、預貯金を遺言通り自分のものとしたりすることができない
という論理的帰結になりそうです。
この問題に結論を出したのが平成3年の最高裁判決、いわゆる香川判決です( 最高裁平成3年9月12日判決(判タ796・81))。
この判決は、相続させる遺言は遺産分割方法の指定としておきながら、特定の相続人は相続の開始の時に遺産分割協議を待たずに直ちに相続できるというふうに示しました。
この実務は現在も続いています。
まとめ
ですので、遺言の相談を受けた際に、
相続人に財産を与える場合には、「相続させる旨」の遺言を、
相続人以外の第三者に財産を与える場合は、 遺贈する
との文言にしておくという整理で実務家としては十分なのではないでしょうか。
なお、内田貴教授は、平成3年最判に言及し、
「私は、遺産分割方法の指定は、本来想定されていたように、現物分割か換価分割かなどの分割方法の指定に限り、処分行為は遺贈によって行なうのが筋だと思う。その点で、税法や登記手続上の考慮を民法の論理に優先させたように見える本件判決には反対である」(内田貴 民法Ⅳ 補訂版 平成16年 486ページ)
と述べています。ごもっともだと思います。
この問題に関するおすすめ文献
以下95ページより