時代の流れか、
「会社員を続けながら、副業に挑戦する方」
も増えてきたように思います。
副業では
「会社で培(つちか)ったノウハウや知識を副業に生かしたい」
「同業他社の商品も売りたい、紹介してみたい」
と考える人も多いでしょう。
でも、 ちょっと待ってください!
業態によっては会社から
競業義務違反として懲戒処分を受けたり、訴えられる可能性
があります。
今回はこの点について実務経験10年以上有する現役弁護士が解説したいと思います。
相談例
私は、最近、以下のニュースを見ました。
- 厚生労働省は企業に対し、従業員に副業を認める条件などの公表を求める。
- 企業が従業員の副業を制限する場合はその理由を含めて開示するよう促す。
国の政策として、副業を推進しているように思われます。
私も休日を利用して、
- インターネットで物を仕入れて販売する「せどり」や、
- 自身のウェブサイトやブログ上で製品やサービスを紹介する「アフィリエイト」
を行うことを考えています。
この場合、「私が現在勤めている会社K」と競合する他社の製品やサービスを販売したり、
または、それらをブログ上で紹介して、紹介料をもらってはいけないのでしょうか?
私はKにおいて、製品AやサービスBの開発、営業にこれまで関わってきました。
ですので、私は、製品AやサービスB、そして、その競合商品C・サービス
Dについて、かなりの知識を持っています。
このことが副業においては私に有利に働くと思っています。
もちろん、会社の顧客リストなどを持ち出すつもりは全くありません。
広くインターネット上で多くの消費者に、
商品A、サービスBを含め、これらと競合する他社の商品やサービス
を売るだけです。
会社員には競業避止義務というのがあるらしく、これに反することになるのでしょうか?
またこれに違反した場合私にはどのような制裁があるのでしょうか?
解説
会社や企業の従業員には競業避止義務が課されます。
- 就業規則に同義務が記載されている場合は就業規則により発生します。
- 就業規則に記載されていない場合は、企業とあなたの労働契約上の付随義務としてあなたに課されます。
したがって、まず会社の就業規則を確認してください。
どの程度、副業として他社の競合・商品を売ったり、広告宣伝したりすることができるか
がわかるでしょう。
ただし、現実には、ほぼ一律に、全面的にこれを禁止している場合が多いでしょう。
ですので、あなたが本件副業を始めた場合、就業規則に違反するという結論になることが多いと思われます。
就業規則に違反した場合(①のケース)
「就業規則上の懲戒処分の条項」により、何らかの懲戒処分が下される可能性があります。
他方、
会社Kがあなたに対して、損害賠償請求することができるか?
という点については
これは難しい
と思います。
なぜなら損害の算定が困難だからです。
つまり、会社Kは、
あなたが会社Kと競合する他の企業の製品やサービスを売ったために、
本来売れるはずであったKの製品やサービスが売れなかった
ということを立証しなければいけません。
しかし、これは本当のところよくわからないことであります。
したがって、あなたが競合他社の製品やサービスを副業として販売したり広告したりすることによって生じるリスクは、
会社Kによる懲戒処分のみと考えて良いでしょう。
副業の規模や期間にもよりますが、この競業行為が発覚した場合に、
懲戒解雇はとても難しいと思います。
よって、訓告、出勤停止、減給等の懲戒処分が選択されることを予想すべきです。
②のケース
就業規則に競業避止義務の記載がない場合(上記②)は、
あなたとKの労働契約上の付随義務から競業避止義務が発生する
と述べました。
この場合は 就業規則義務違反には当たりません。
よって、Kはあなたに対して懲戒処分を行うことができないと考えます。
懲戒処分の根拠を、労働契約の企業秩序定立権と解する説と、 就業規則や個別労働契約に明記されている必要があると考える説に分かれます。
判例は懲戒処分の内容、違反対象行為等が就業規則や個別労働契約に明記されている必要がある、というふうに考えているようです。
そうすると、会社Kはあなたに対して 何らかの法的手続きをとるとすれば、労働契約上の付随義務に違反する損害賠償請求を行うことになると思います。
しかしこの損害の算定や、因果関係について立証することが困難である事は前述しました。
よって、あなたの副業の規模、態様等にもよりますが、
労働契約の解除を認めるほど、
つまり、解雇が認められるほどの競業避止義務違反がない場合は、
企業としてもあなたに法的手続きは取りづらいと考えます。
なお 就業規則に、競業避止義務としてではなくて、 副業の一律禁止規定や、許可制を規定している場合があります
この場合、
副業を行っていたり、または、許可を得ずに副業を行っていたりすれば、
この部分を就業規則違反として懲戒処分の対象とされることがあります。
この点はご注意いただきたいと思います。