身寄りのないお年寄り(=成年被後見人)がお亡くなりになった場合、
成年後見人はどこまで死後事務の処理をすることができるのでしょうか?
また
被相続人の死期が近く、死亡時の段取りを確認しておきたい
とお考えの後見人もいらっしゃるかもしれません。
今回は実務経験10年以上有する現役弁護士が、これらを解説したいと思います。
原則の確認
成年被後見人が死亡したときは「後見人の任務が終了したとき(民法870条)」にあたる。
この場合 成年後見人の職務としては、被後見人生存時に管理していた現金、預貯金、不動産等があればその引き渡しを相続人に対して行うのみです。
病院代の支払い等は相続人の相続債務となるので、相続人が行います。
不動産の修理契約、火葬に関する契約等は相続人の締結権限となります。
むしろ、元後見人が債権者の請求に安易に応じて債務の支払いをすると、「単純承認」と判断され、相続人が相続放棄をできなくなる可能性すら出て来ます。
元後見人は被後見人死亡後は相続人に引き継ぐまで、被後見人の財産にはタッチしないとの態度をとることが重要です。
不都合性
しかし、このような原則を貫くと、 生前にご親族と交流のなかった被相続人、身寄りのない被相続人において、困った場面が生じてきます。
具体的には、
- 看取りの段階までお世話になった病院や介護施設への支払がすぐにはできない
- 被相続人の所有する不動産に雨漏りが生じたり、シロアリの被害が発覚してしまったりしても元後見人は何もできない
- 火葬・埋葬すらできず、遺体がそのまま放置されかねない
という問題です。
これまでの成年後見人は、やむを得ず、このような行為を必要最低限行うことで問題を解決してきました(民法874条、654条)。
しかし、2016年10月の民法改正により、元後見人の行うことのできる行為が具体化しました。
第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
- 必要がある時であって、
- 相続人の意思に反することが明らかな場合を除いて
- 相続人が相続財産を管理するに至るまでの間
- 成年後見人(×保佐人、補助人)だった場合
- 三号については裁判所の許可を得ること
を満たすとき、元後見人は以下の行為ができます。
一号 不動産(遺産)の雨漏りやシロアリの対策等保存行為
二号 病院への支払い、介護施設への支払い等の相続債務であって、支払い期限が到来しているもの
三号 死体の火葬等その他保存行為
二号については、支払い原資として、 前もって現金を保管しておかないと、金融機関において後見人口座や本人口座からお金を引き出す時、それを拒否する金融機関もあるようです。
この場合、二号であっても裁判所の許可をもらってお金を引き出すことになるでしょう。
三号には葬儀契約は含まれていません。
葬儀の形式や規模等は相続人の意向や被後見人の資産状況等に大きく依存するものです。
元後見人がこれを行うとトラブルが発生しやすくなると立法担当者が考えたのでしょう。
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