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家事

経済的虐待と成年後見

 

精神障害者の障害年金が親族により搾取されている場合、どのように弁護士が介入し、問題を解決したら良いのでしょうか?

 

また、障害者や高齢者の入院費の滞納が発生した場合、病院はどのようにこの滞納分を回収したら良いのでしょうか?

 

今回は

経済的虐待と成年後見の申立

というテーマについて、実務経験10年以上有する現役弁護士が解説したいと思います。

 

事例

H(70代)は 統合失調症により障害年金をふた月に1度、35万円程受給しています。

Hは数年前に脳梗塞も発症したため、認知機能も低下し、現在は高齢者専門の病院Bに入院しています。

 

しかし、ここ1年ほど病院Bへの支払いが滞るようになり、その滞納額が160万円程度になりました。

このままでは退院をさせられてしまうかもしれません。

 

これまで支払いをしてきたのは、Hの身元保証人(兄A)でした。

Hに妻子はいません。

 

病院はAに対して支払いを催促してきましたが、Aはこの支払いの応じず、連絡すら取れなくなってしまいました。

 

そこでBはHの弟Oに連絡をとり、相談をしました。

 

とるべき道筋

 

Oが申立人となって、成年後見人または保佐人を選任してもらい、受給している年金が何に使われているか調査すること

から始めるべきです。

 

後見人選任を求める申立

 

Oから 相談を受けた弁護士Lは

・Hの長谷川式の点数が8点程度であること、

・担当医からHの状況につき情報を得て、

家庭裁判所に対し、Oを申立人とする成年後見人の選任の申し立てを行いました。

 

Oは

県外におりHのために動くことが難しいこと、

Hに対する経済的虐待の可能性があり、後見人就任後も法的な対応が求められる可能性が高いこと

 

などから、家庭裁判所に対しては弁護士Lを後見人候補者として推薦しました。

 

後見人就任

 

申立から2ヶ月ほど経って、弁護士LがHの成年後見人に無事に選任されました。

 

弁護士Lは早速

・兄Aに対し、後見人就任を通知しました。

・成年後見人口座を作成し、障害年金の振込先を後見人口座に変更しました。

・元々の年金受け入れ口座の履歴を調査しました。

 

判明した事実

 

そうしたところ、ふた月に1回入ってくる年金は、

すべて住宅ローン、及び、リフォームローンで引き落としがされていること

がわかりました。

 

さらにこの住宅は兄A家族が実際に居住する家についてのものでした。

 

銀行との交渉

 

Lはその住宅ローン等の契約をしたG銀行担当者と話をし、状況聴取をした上、 住宅ローン等の契約書の写しを入手しました。

 

本件住宅ローン等の契約は、Hが脳梗塞を発症した後に締結されていました。

 

この場合、Hにおいて、

住宅ローン等の契約時に求められる意思能力

が備わっていたのかどうかと言う点もわからなくなりました。

 

AがHの認知機能低下状態を利用して、自らの利益のために住宅ローンを締結した可能性が考えられます。

 

LはG銀行担当者に対し、このような事情を説明し、

場合によっては本件住宅ローン契約の無効を主張することも示唆しながら、

現在実際に住んでいる人間がこの住宅ローン等を支払うべきである

と交渉しました。

 

交渉結果・解決

 

銀行担当者はその点について一定の理解を示し、

今後は兄Aから住宅ローン等の返済を受け取る

様にしてくれました。

 

兄Aもこれに承諾したようです。

兄Aとしてもこのような提案に乗っておかないと、Lから横領罪などによって告訴される可能性を危惧したのではないでしょうか。

 

いずれにせよ、

病院の支払いが滞っている原因に対して対処したので、

1年かけて徐々に入院費の滞納金額を減らし、ついには滞納0円

というところまで持っていくことが出来ました。