売却予定地の一部に、小さな他人所有地が混ざっていた場合、どのように対応すべきか?
という問題に対して
前回に引き続き、今回は「訴訟提起以後の経過」それから「結末」について、
実務経験10年以上を有する現役弁護士がご紹介したいと思います。
方針の振り返り
この問題で考えられる方法は2つあると思います。
①相続人を調べて各相続人の方にお願いをして、お一人30,000円から50,000円程度の判つき料をお支払いして、取得時効に基づく所有権移転登記手続きに協力していただく方法、
②各相続人の方にお願いをして相続人が多数存在する等のため、民事訴訟を提起し、その訴訟で何も対応しないようにお願いすること
本件では2つ目の方法をとることにしました。 このあたりについては前回の記事をご覧ください。
事前の手紙(ご挨拶)
いきなり民事訴訟の訴状がご自宅に届くことになっては相続人の方々を無用に驚かせてしまいます。
そこで相続人の方々に
事前のご挨拶、これまでの事情の説明、
民事訴訟を提起すること、そしてできればその訴訟で何も対応しないこと
をお願いする旨のお手紙を送りました。
訴訟提起
その後、取得時効を原因とする所有権移転登記手続請求訴訟を提起しました。
本件の場合、目的物件(B土地)の固定資産税評価額が僅少であったため、簡易裁判所を管轄として選択できる事案でしたので、簡易裁判所に訴訟提起しました。
時効の起算点をいつにするか
訴状を作るにあたって検討するべきは時効の起算点、つまり占有開始時をいつにするかと言う問題です。
これについては時効を主張する当事者が占有開始時を便宜的に動かしたり、設定したりすることはできないという判例となっています。
本件では亡甲がその父から相続した地点を起点とすることにしました。
亡甲が相続した時点より、亡甲の所有者としての占有・管理が始まった
と考えるストーリーです。
この起算点から20年経った時点を取得時効の終点とすることになります。
原告側の相続の立証
そうすると 訴状の請求原因の中で、亡甲から乙への占有の相続を主張する場面が出てきます。
この点については
戸籍で甲の死亡を示し、
かつ、
遺産分割協議書(それがなければ、陳述書)などでその相続人乙が本件各土地の所有権及びB土地の占有を承継した
旨の主張立証をすることになりました。
第一回口頭弁論に被告ら側は一切欠席でしたので、原告側の相続は不要証となるかと思いきや、裁判所からこの点について求釈明があったからです。
このようなことから、取得時効に基づく所有権移転登記手続訴訟を起こす場合は、できるだけ原告側の相続がないような占有期間で請求原因を書くことができれば、手間が省けて良いと思います。
被告の1人による苦情
訴訟提起後事務所に苦情の電話が入りました。
今まで真面目に生きてきた私が「被告」とされたことにとても憤慨している。
名誉を害された。警察に相談に行く。
とのことでした。
確かに、ニュースなどで被告といえば刑事被告人を想起させますので、そう誤解されてもやむを得ません。
私は、
訴訟提起に至った事情を説明し、本件が民事訴訟であること、各人に私権の実現を図るため、民事訴訟を提起する権利が憲法上保障されていること
等を説明しました。
事前にお手紙でご説明していてもこの様な事態が生じましたので、注意が必要です。
結末
結局、被告らは全員裁判に欠席し、無事判決をもらうことができました。
以上の過程を経て、無事B土地が乙名義となりました。
乙は、本件各土地と共にB土地も不動産業者に売ることができました。
訴訟提起から判決確定までの時間
訴状提出から約2ヶ月後に第一回口頭弁論期日が入りました。
第一回口頭弁論期日から約2ヶ月後に判決がありました。
判決日から約3週間ほどして、判決が確定しました。
よって、訴状提出から判決確定まで5ヶ月程度かかったということになります。