似通った制度である
遺言と死因贈与
について あなたは十分に説明できますか?
今回は
撤回の可否
にスポットを当てて、実務経験10年以上の現役弁護士が解説したいと思います。
遺言の撤回
例えばAがBに対して甲土地を遺贈する旨の遺言を今日書いたとします。
しかし、1ヵ月後の7月、AはBと喧嘩してしまい、 気が変わってしまいました。
この場合、Aはいつでも遺言の方式に従ってその遺言の全部または一部を撤回することができます。(民法1022条)
遺言の抵触
又は、Aが7月に新しい遺言を書いたとします。例えば甲土地はCに譲渡すると言う旨の遺言です。
この場合、6月の遺言と7月の遺言が抵触します。
よって、その抵触する部分つまり甲土地をBに遺贈すると言う部分が撤回されたとみなされます。(民法1023条1項)
生前処分
さらには、Aが新しい遺言書を書かなくても、
Aが生前に、甲土地をCに贈与、売却等の処分をしたら、
6月の遺言が撤回されたことになります(民法1023条2項)。
死因贈与の撤回
では、遺言と類似性を有する死因贈与の場合、上記のような撤回は認められるのでしょうか?
ポイントはその性質に反しないかどうかと言うことになります。
まず、 その性質とは何を指すか、
ここでは、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与
と素直に読みます。
相違点
死因贈与契約は契約であることが遺言と違います。
すなわち贈与を承諾すると言うBの意思表示が必要となります。
したがって債権の基本的な考え方として、契約を一方当事者が自由に撤回すると言うことを認めていいのかと言う問題に突き当たります。
片務性
しかし贈与は片務的契約であり、受け取る側は一方的に利益を得ることが多い契約です。
よって、これについて撤回を認めても、そんなに私的生活に不都合はない場合が多いと考えます。
よって、私は遺言と同列に撤回を認めても良いと考えます。
最高裁判例も同じように考えているようです(最判昭47・5・25民集26巻4号805頁)。
負担付死因贈与契約
ただし、負担付死因贈与契約については話は別に考えるべきです。
例えば、AからBへの甲土地の死因贈与について、BがAの介護や看取りを行うという負担が付いている場合です。
なぜなら、この契約類型については片務性はなく、Bが頑張って負担を履行しても、つまり、Aの介護等に勤しんでも、Aが自由に撤回できるとしてしまうと結論的におかしなことになるからです。
この場合は契約の拘束力を保持した方が良いでしょう。
よってこの場合は撤回できないとすべきでしょう。
判例も同趣旨です(最判昭57・4・30民集36巻4号763頁)。
税制
死因贈与は、贈与でありながら、贈与税ではなく、相続税 として課税される様です(相続税法1条の3第1項1号)
その他の税制については、別の回でまとめたいと思います。
中田 裕康 (早稲田大学教授)/著 有斐閣 2017年 9月