令和4年司法試験論文式民事系に
死因贈与と遺言(遺贈)の違い
について考えさせるような問題が出ていました。
実務家として死因贈与と遺言のどちらを相談者にお勧めすべきか?
実務経験10年以上の現役弁護士がこの点について掘り下げようと思います。
解説
例えば、ご高齢のAさんが、「私の死後、甲土地をBさんにあげたい」と思った場合、
遺言による方法と 死因贈与による方法
が考えられます。
講学上の違い
遺言が単独行為である反面、死因贈与は契約である
と言う点です。
すなわち、死因贈与においてはBが甲土地を譲り受けることについて承諾をしなければなりません。
さらに、 Aは「Bが自分の介護を最後までしてくれること」を条件に死因贈与契約を締結することができます(負担付死因贈与契約)。
負担付遺贈(民法1002条)と言う制度もありますが、その負担がAの生前に関するものであった場合、Aの遺言発見がAの死後であることが多いと考えられますので、Bはその負担の内容を知らず生前に履行をすることが難しいという問題があります。
遺言と死因贈与をしていない場合
BがAの相続人である場合
この場合でも、現行法令では、Bの看護療養に基づく寄与分はAの財産が増加しない限り認められにくいです。
加えて、A死後の遺産分割協議では、Bが寄与分を主張する際に
Bがどのような介護をしていたのか、
そのことによってAがどのような費用の支出を免れたのか
と言うような点についてBが立証する責任があります。
Bには甲土地を得るためにハードルが課されます。
Bが相続人でない第三者である場合
例えば遠い親戚にあたるBが身寄りのないAを介護し、看取った(みとった)と言う事例ではBに相続権がないので寄与分は発生しません。
解決手段として
これら点を解消するために「遺言」と言う手段があります。
しかし生前に、
Aの死後は甲土地がBの物となる
という死因贈与契約をしていれば、
仮にBが甲土地(財産)のために介護をしているのではないとしても、
ある程度の見返りが約束されている
と言う気持ちをBはAの存命中から持てるかもしれません。
Aの死後、遺贈の存在を初めて知ることが多い遺言とは異なり、死因贈与契約は契約的側面が強い(予測可能性が高い)という印象を持ちます。
方式の差異について
死因贈与契約は遺言と違って法律上の方式が定まっておらず、簡明だ
と言う指摘があります。
しかし、死因贈与契約は契約であるので、契約書として残しておく必要があります。
これは後に相続人と甲土地をめぐって対立した場合に立証する手段となるからです。
その契約書においては、弁護士が作成した契約書等が安心でしょう。
よって、遺言と死因贈与契約ではどちらの方が作成の難易度が高いかどうかと言うのはあまり当てはまらない問題だと考えています。
死因贈与の法律と実務 編集/本橋総合法律事務所 新日本法規出版 2018年 8月