いわゆる特殊詐欺の「出し子」の刑事弁護をしている際、
被告人が弁護人に対し
何らかの犯罪に関与しているかもしれないという意識はあったが、それ以上のことは全く知らなかった
と説明する場合があります。
この場合、刑法上の「共謀」や「故意」は認められるのでしょうか?
実務経験10年以上の現役弁護士がこの問題について報告します。
出し子とは
電話などで騙された高齢者のお宅などに直接出向き、現金を受け取ったり、
振り込まれた現金をATMで下ろす役です。
被害者と直接的に接触する場面を担当するので、 「だまされたふり作戦」などで逮捕される場合が多いのです。
逮捕された後、弁護人が被疑者の話を聞くと
① 本当に何か企業の仕事と思ってやっていた、お金がなく困っていた、1回につき数万円もらえる約束だった
② しかし、荷物を受け取りに行くだけで数万円もらえる不思議な仕事なので、何らかの犯罪に関わっているかもしれないとは思うこともあった。
などと言う供述をすることがあります。
詐欺罪の実行行為は欺罔(ぎもう)行為です。
よって「かけ子」役が電話をかけて欺罔行為を行った時点で実行行為が終了しているものと考えます。
従って本件の出し子は共謀共同正犯として起訴されることが多いです。
裁判での争い
争点となり得るのが「共謀の有無」と、「故意」の有無です。
上記①②のケースでは弁護人は「共謀」と「故意」を争うかどうか検討することになります。
「共謀」と「故意」が認められるためには、
ある程度は自分がどんな犯罪に関与しているのかを具体的に認識している必要があるのではないか
という指摘があります。
共謀共同正犯は、実行行為を行っていなくても正犯と同等の責任を負うものです。
そうだとすれば、正犯として責任を負いるほどの犯罪事実の認識、つまり、今からやろうとしている犯罪事実が何なのかということの認識が必要となってくる と考えるのが素直です。
こういう観点から
犯罪の具体的な手法(手口)は知らないが、何らかの犯罪に関わっているのかもしれない
という程度で正犯としての刑事責任を問うて良いのかと言う疑問が生じてしまいます。
また 犯罪の成立に「故意」、 すなわち、「今から行おうとしている犯罪事実の認識とその認容」が必要となるのは、
その程度の認識があれば、その犯罪を思いとどまることができる
のに敢えてそれをやった
と言う点で刑事的非難が被告人に対して可能だからです。
そうすると具体的な犯罪の内容を知らないまま、何らかの犯罪に関与してるかもしれないと言う位の認識では、
今回の犯罪に関わったときに本当に故意責任を取れるのかと言う疑問が生じます。
覚醒剤事犯との比較
覚醒剤被告事件の場合に、「使用薬物が覚醒剤である」との認識がなくても、
「厳格な法規制の対象になっており,依存性の薬理作用を有する心身に有害な薬物の認識」が認められれば(「何か違法なもの」という認識では足りない),故意が認められる(最決昭 54┠3┠27 刑集 33┠2┠140).有害薬物の中のいずれの一種であるか不確定で,特定した薬物として認識することはなくても,覚せい剤かもしれないという認識はある以上(概括的認識),故意が認められる(最決平 2┠2┠9 判時 1341┠157)
引用:刑法 第4版 木村光江 著 東京大学出版会 2018年 3月
この考え方から類推すれば、
何らかの違法な詐欺、具体的にはオレオレ詐欺等の片棒担いでいるかもしれない
という程度の認識があれば「故意」は認められるのかもしれません。
次回はこの問題について、裁判ではどのような結末になることが多いかについて報告したいと思います。