「当該従業員がセクハラだと思ったらそれはセクハラにあたる」
と言う言説を耳にすることがあります。
もしそれが本当なら、
当該従業員の主観(気持ち、気分?)により
当該関係者の行為がセクハラになったりならなかったりする
ことになり得ます。
法律上の基準がそのような主観的なものであれば、職場では、
性的な話をする事は一切しないでおこう
となるのも納得できます。
そこで今回は、法律上セクハラに該当するかどうかの判断基準について、
実務経験10年以上有する現役弁護士が整理してしてみたいと思います。
日常的・国語的使い方
皆様は
セクハラ = ①相手の意に反する、②不快な、③性的言動
という程度に認識しておられるのではないでしょううか?
①〜③のとおり、3つも評価的概念が組み合わさっています。
一般に、評価的概念はそれぞれ広がりを持っています。
その広がりの範囲は人によってまちまちですので、明確にその輪郭を決める事は難しいです。
その評価的概念が3つも組み合わさっている「セクハラ」と言う概念は、その範囲がとても広い様に思えてしまうのも仕方ない気がします。
セクハラに対する職場の敏感な対応は、このようなところが原因の1つになっていると考えられます。
法律上の概念
では実際、法律上は「セクハラ」とはどういうものだと規定されているのでしょうか?
男女雇用機会均等法
セクハラについて
職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、
又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること
と規定されています(11条1項)。
いわゆる 対価型セクシャルハラスメントと環境型セクシャルハラスメントです。
皆様、聞いたことありませんか?
例えば、
性的な言動に対して嫌がったり拒否をした事に対し、配置転換や、減給、降格処分などをした場合(対価型)
又は、日常的に職場に性的な言動が飛び交うため、労働者が仕事に取り組みにくいような環境が生まれている場合(環境型)
などが想起されます。
厚生労働大臣が、 上記に関連して作成した指針には、
「性的な言動」とは、
性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等
性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等
との記載があります。
事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき 措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)【令和2年6月1日 適用】 2⑷
だいぶ具体化してきましたね。
しかし、環境型については
「労働者が仕事に取り組みにくいような環境」
という評価的概念がまた出てきています。
裁判においては、「取り組みにくい環境」かどうかは、当該労働者の主観だけではなく、常識的、客観的にもそう言えるかが重要な判断要素になると思います。
違反した場合
男女雇用機会均等法11条1項は、セクハラに関して
当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない
としています。
よって、これに違反した場合、使用者は、つまり会社などは、
「労働者との間の労働契約上の安全配慮義務に違反した」
として損害賠償請求等を受ける可能性が発生してきます。
男女雇用機会均等法上のセクハラ概念は、我々が普段日常的に使うセクハラ概念よりも狭く規定されているようです。
次回は、不法行為上のセクハラ概念、セクハラにあたる基準について検討していきたいと思います。
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