高齢の父母や祖父母を、
特別有料老人ホームや、老人保健施設等に預けている場合、
そこの職員さんから虐待を受けているとき、
どのような法的対応が可能か
実務経験10年以上を有する現役弁護士が検討します。
事実の確認
まず高齢者に面会に行った時身体にアザ等の外傷がある場合、身体的虐待が発生している可能性があります。
したがって、 これが事故でついた傷なのか、
それとも職員さんが故意に 虐待を行った結果なのか
を確認することになるでしょう。
事故でついた傷であっても、 そこの施設の職員さんや責任者から説明を受け
どういう状況でこのような怪我が生じたのか
どういう点に施設側の落ち度があったのか、
今後どのような改善策をしていくのか
と言う説明を受けるのは当然です。
そのような説明を受けても
説明が不自然だ、合理的な説明になっていない、
などと感じる場合、
施設側の落ち度による不法行為責任を検討するか、
または、虐待を理由とした不法行為責任の追及すること
加えて、速やかにその施設から高齢者を避難させること
を検討しなければなりません。
事実認定の難しさ
ここでネックとなるのが、事実認定です。
施設側の落ち度(=過失)を立証するにしても、
「虐待」行為を立証するにしても、
施設内で起こったことですから、これらの立証することには実務上困難性が発生します。
よくテレビなどでみられるのが、 カメラを忍ばせておいて、施設職員による虐待の様子を撮影したもの です。
しかしこの証拠収集も、大切な高齢者が虐待を受けることを前提とした証拠収集なのでなんとも心が痛いものです。
内部告発(=他の施設従事者のによる証言)も証拠としては可能ですが、
施設が虐待の疑いを受けている場合 その施設は その施設の存続を確保しようとし、従業員たちに緘口令(かんこうれい)を敷くことが多いです。
その場合その施設の方針に反して告発してくれる職員さんはなかなか確保しがたいと思って良いです。
その施設をやめた職員さんに証言をもらっても良いのですが、やはり介護業界というのはつながっていますし
まして地方であれば辞めた後でも、元いた施設を告発するというのはその職員にとっても意趣返しを怖がるため、なかなか声をあげてくれません。
市町村への相談
その施設のある市町村にの高齢者対応窓口に行き、相談してみても良いです。
市町村は
虐待を受けたと思われる高齢者に関する通報を受けたとき、
本件虐待に関する事項を調べ、都道府県に報告します(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律22条1項)
そして、市町村長又は都道府県知事は
老人福祉法又は介護保険法による監督権限、つまり、施設からの報告聴取、施設への立ち入り調査、施設への勧告・公表、指定取り消し等
を適切に行使します(同法律24条、25条)。
しかし、このような権限行使も、虐待の証拠つかんでいることが前提となります。
なぜならば、証拠もなく公表等を行った場合、その施設に与える影響はとても大きいからです。
市町村による立ち入り調査においても先ほどのように
施設側がその施設を守るという方針を貫きますのでなかなか内部告発を得るのは困難です。
いずれにしても、
最低限怪我部位の写真や虐待の現場をとらえた動画等
の証拠を取得して、それを持って市町村に行く事が重要です。
高齢者虐待を防げ 倉田康路・滝口真監修 法律文化社