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選挙運動と政治運動の境界 地方選挙において

 

地方選挙に立候補しようとする候補者は、告示日に立候補の届け出をした後からしか選挙運動することができません。

 

しかし、 選挙期間以外にも、 街頭演説、市長や議員の市民への報告会、議会での活動を報告する新聞、 議会報告のメール配信等 の行為が巷でよく見られます。

 

このような行為は事前運動として公職選挙法により禁止されているのではないかという疑問が素朴に湧いてしまいます。

 

以下、この問題について10年以上のキャリアを持つ現役弁護士が法的に検討します。  

政治活動とは

政治活動とは政治的目的をもって行われる一切の行為を言います。

国語上の認識では、選挙運動はその政治活動の中に含まれている包含関係にあると言えるでしょう。  

 

しかし、公職選挙法においては その選挙運動の輪郭、際(きわ)をきっちり捉えること、 つまり、選挙運動と政治活動の境界線をきっちり理解しておくことが必要です。

 

なぜなら選挙運動は

告示日の立候補の手続き完了

〜投票日の前日の午後8時まで

しか行うことができず(以下、この期間を「選挙期間」と言います。)、

これに反した場合は1年以下の禁錮等の刑罰が課され、当選は無効となるからです。

 

他方で、選挙運動に当たらない政治活動は基本的に自由です。

選挙運動とは

  ここで選挙運動とは何かと言う事について公職選挙法には規定はありません。

したがって、我々はこれまでの裁判例や、学説による解釈が必要となってきます。

現在のところ 選挙運動に当たるかどうかは3つの要素で判断されるようです。

1 特定の選挙について

2 特定の候補者に関し 

3 当選を依頼するように投票権者へ働きかけをすること

例示1

  例えば、立候補する選挙を特定せず、抽象的に

 

「私が将来政治家になる場面が来たら応援してね」

 

と言う位だったら、選挙期間中でなくても許されると思われます。

 

この場合は1の要素を満たさないので、選挙運動と判断されないと考えられるからです。

ただし選挙が直近に迫っていて、

「将来政治家になる」といっても諸般の事情から、

立候補する選挙を特定できるような場合は1の要素を満たすことになります。

この場合は選挙運動と判断され、選挙期間中以外であったら公職選挙法違反となります。

例示2

  選挙における投票率のアップを目指す団体が

 

次回の地方選挙はぜひ投票に行ってください

 

と大衆に呼びかける事はどうでしょうか。

 

これは2の要素を満たさないので選挙運動と判断されないと考えられます。

よって選挙期間中でなくてもこのような活動をすることができます。

例示3

  「次の選挙で私は立候補します」

と知り合いに告げた

 

いう位はどうでしょうか?

 

3の様子を満たすかどうかがポイントになります。

3の投票の働きかけがないように見えますので、原則的には大丈夫かのように見えます。

 

しかし、こういう状況って、暗に投票を依頼している場合が多いのではないでしょうか。

 

裁判例等は

投票を働きかける言葉を明示的に言わなくても

その場の雰囲気や、言葉以外の態度

などで黙示的に投票働きかけたと認定されることがあります

その場合は選挙活動に当たります。

注意が必要です。

 

    〜おすすめ文献〜

地方選挙の手引き令和4年 選挙制度研究会編 ぎょうせい

平易な言葉で解説し、簡にして要を得た文献だと思います。文書量も適量です。