長年、亡き親の遺産をめぐって兄弟間で決着がつかず、そのままになっていませんか ?
また、そのような案件が家庭裁判所で調停に付された場合どのように対応していくべきでしょうか ?
遺産の取得時効が認められるか?
葬儀費用や土地建物管理費用は誰が負担すべきか?
などを含めて、実務経験10年以上有する現役弁護士が解説したいと思います。
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相談例
亡き母の遺産相続で揉めて20年以上が経過しています。
相続人は6人の兄弟です。
遺産としては預貯金が20,000,000円程度、土地が複数あります。
私は長男として亡き母と同居し、晩年認知症となった母の面倒を見て、看取りまでしました。
しかし、母が遺言を書いてなかったことから、遺産の分割について兄弟間で折り合いがつかず、
土地の一部を占有する姉が遺産分割調停を起こして、遺産の土地の20年時効取得を出張してきています。
私は葬儀代や、土地の固定資産税の支払い、土地の雑草状況等の管理行為 などを行ってきました。
ここまで揉めたら、それら費用も兄弟で分担してもらいたいと思っています。
この 遺産分割調停でどのように対応したらいいでしょう か ?
解説
共同相続人の1人が占有している土地の取得時効が成立するかどうか
基本的に裁判例はこれを否定します。
理由は、被相続人の死亡時に遺産となる土地や建物は、各相続人の共有となるからです。
共有の場合、他の共同相続人の相続分について
取得時効で要求される自主占有(=所有の意思をもってする占有) が認められにくくなるのです。
例外的に、
- その占有する共同相続人の1人が単独で相続したものと信じて疑わなかった事案や、
- 相続人は自分1人と思い込んでいた事案
等については自主占有が認められ、 時効取得が認められた裁判例があります。 (東京高等裁判所判決昭和52年2月24日など)
相続人の1人が支出してきた固定資産税、管理費用等、葬式費用は誰が負担すべきか?
土地・建物の固定資産税、火災保険料、草刈り等の管理維持費用等は
遺産の管理費用
と呼ばれます。
これは遺産分割調停において、
相続開始の後に発生したものであって、
遺産とは別個のもの
と分類されます。
したがって、調停での遺産分割手続きの対象とはなりません。
よって、これらを支出した相続人等は
別途、他の相続人を相手にして民事訴訟などを提起し、
支出した分を回収することになります。
ただし、他の相続人が同意すれば遺産分割調停の手続内で解決を試みることができます。
葬儀費用については、祭祀(お墓や仏壇)を承継する者や喪主が負担すべきとの見解が有力です。
なお、 香典は葬儀費用に充当されます。
余りがあれば
祭祀承継者や喪主が取得する見解と
各相続人が取得するという見解
に分かれています。
寄与分は認められるか
寄与分とは
被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者(民法第九百四条の二)
に対して、法定相続分以上の相続を与える制度です。
そして、これらの寄与行為は、
- 対価をもらってしたものでは駄目です(無償性)。
- 親子間の相互扶助義務(民法877条)を超える「特別のもの」でないといけません。
- 寄与行為によって被相続人の財産の維持・増加が認められなければなりません。
このように認知症の母を長年看護してきた場合であっても、
簡単に寄与分が認められるわけではありません。
裁判例
認知症を発症した被相続人(本件では亡き母)と同居して、約10年ほど介護をして、看取りまで行った相続人に対して、
裁判所は
他人を付き添いとして雇った場合に支払うべき費用の支払いを免れた、
すなわち、相続財産の減少を免れた
ので、特別の寄与があったとし、
当時の看護師・家政婦紹介所の協定料金(4500円/1日)を基にして
結果的に10,000,000円ほどの寄与分を認めた裁判例が
あります。 (盛岡家庭裁判所審判昭和61年4月11日)
被相続人の死亡前4年間、認知症が重く、排泄等の介助が必要だった事例で、
これらを介護した相続人の1人に遺産の15%を寄与分として認めた例があります(大阪高等裁判所決定平成19年12月6日)。
本件でも、被相続人の認知症の程度が分かる医療記録等を証拠資料として調停に提出し主張立証を行うことが有効です。
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