弁護士中村亮佑のブログ
家事

遺言書を作るべきか?──弁護士と一緒に、身近な事例から考える「準備の大切さ」

遺言書セミナー報告ブログ

先日、Zoomセミナーで「遺言書を作るべきか?」というテーマについてお話ししました。
結論から言うと、遺言書は“自分のため”であり、“残される家族のため”でもあるということを、実感を込めてお伝えしました。

遺言がないことで起きる“想定外のトラブル”→弁護士へ依頼

私は弁護士として、遺産をめぐる相談を多く受けています。
なかでも印象的なのは、「仲の良かった兄弟姉妹が、親の死後に関係が壊れてしまった」というケースです。
たとえば──

  • 特定の兄弟が、親の預金を先に引き出していた。
  • 家の名義をどうするかで意見が対立した。
  • 「親は自分にこう言っていた」と、記憶の食い違いが生じた。
  • 不動産の評価額について、兄弟で見解が異なった(不動産をもらう方は少なく評価し、もらわない方は高く評価しがち)。

こうした問題の多くは、遺言がなかったことが根本の原因です。
遺言があれば「誰に何をどう渡すか」が明確になり、感情的な対立を防ぐことができます。

「うちは揉めない」と思っている人ほど危ない

セミナーで特に強調したのは、「うちは大丈夫」と思っているご家庭ほど、トラブルになるリスクが高いという点です。
生前は仲が良くても、相続となると“お金の問題”が前面に出てきます。
そして、誰かが損をしたように感じると、信頼関係が一気に崩れるのです。

あるご相談では、亡くなったお母様が「兄に任せるから」と口頭で話していたのに、遺言がなかったために妹さんが不信感を抱き、結果として家族が絶縁状態になってしまいました。
もし正式な遺言書があれば、結果はまったく違ったはずです。

遺言書は「財産の多い人だけにオススメ」ではない

遺言というと「資産家だけが作るもの」と思われがちですが、そうではありません。
むしろ、普通の家庭こそ作っておくべきです。
たとえ財産が少なくても、「誰がどの財産を引き継ぐのか」を決めておかないと、相続人が困ってしまいます。

また、遺言書を作ることで、自分の意思を明確に残せます。
たとえば、「長年介護してくれた娘に多めに渡したい」「遺産の一部を寄付したい」──そうした希望をきちんと形にできるのが遺言書の良いところです。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

遺言書には大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。

  • 自筆証書遺言は、すべて自分で手書きする方式。費用はかかりませんが、形式を間違えると無効になるおそれがあります。
  • 公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう方式。多少の費用はかかりますが、法的に確実で、紛失や改ざんの心配がありません。

私は、ケースバイケースで使い分け、ご提案しています。

最後に──「今」が最も作りやすいタイミング

遺言書は、思い立った時が一番の作りどきです。
元気なうちに、自分の言葉で、自分の意思を形にしておくこと。
それが、残された家族への最高の“思いやり”になると私は思います。

もし考えが変わったら、書き直すことも可能です。

「まだ早い」と感じている方にこそ、今日から少し考えてみていただきたいです。